「奈良美智 - for better or worse -」見てきました。#夏の豊田市美術館



奈良美智 - for better or worse - (豊田市美術館)
2017年7月15日(土)~2017年9月24日(日)

今月の名古屋行きはこれが目的でした。
(この記事は、奈良美智さんの絵に興味を持っている人向けです。長いです。)
※8/23 ユリイカの特集等リンクを追加





ちょっと振り返ってみるに、奈良美智さんの絵を初めて知ったのは、やはり、国内で初めて大規模な個展があった2001年前後だと思う。そのころ雑誌でたくさん取り上げられていて、何かが自分の中に引っかかって、めずらしく作家の名前も覚えて注目するようになった。とはいえ、そのころは絵を前にしてじっくり鑑賞するという態度を持っていなかったので(奈良さんに限らず美術全般で)、印刷物でも十分という感じだった。
←これは、今は違いますよ! アートと呼ばれるようなものは、やっぱり実物のほうがぜんぜん情報量が多いので。

原美術館で行われた「奈良美智 - From the Depth of My Drawer -」展(2004年)は、「Fountain of Life」など立体的な作品が印象に残っている。ピルグリムが好きだった。ロッタちゃんの映画のパンフとか買っていた。
ペインティングの作品を初めてじっくり見たのは、たぶん2012年の横浜美術館の個展「a bit like you and me... 君や僕にちょっと似ている」。このブログにも少し感想がある。最新作の「春少女」「Cosmic Eyes」「夜まで待てない」がやはり圧巻で、あと、図録の表紙にもなっている「Under the Hazy Sky」の前に立ったときの、言葉にしづらい、絵からもわぁーっと何かがにじみ出てくる感じ、今でも覚えている。
この「何か」が何なのかはよく分からないけど、こういうものがある作品が、ただのイラストやグラフィックではなくて、アートなのかな、と漠然と思ったりした。人によって、この作家の作品には感じる、感じないがあるだろうけど。

正直、2000年代後半は、奈良さんが最近何をやっているのか知らなかったというか、しばらく忘れていたんだけど、この2012年の個展から、また新作を楽しみにするようになりました。「あの有名な90年代から、表面的にはだいぶ絵柄が変わったけど、こうして進んでいるんだな」と、いや、"進んでいる"と言うと、"進化している"みたいな意味があって、それはちょっと違うけど、「ああ、この人は作家として、同時代のアーティストとして、自分自身の個性を生き続けているんだな」と…………。(たいへん僭越ながら)

今回の豊田市美術館は、この「一人のアーティストが自分の個性を生き続ける」って、こういうことなのか、と、過去の代表作から最新作までたどりつつ、振り返り、感じることができる贅沢な展覧会だったと思う。

90年代など、印刷物でしか知らなかった、もう日本に来ることはないような過去の名作が揃っている。ザ・奈良美智誕生!の「The Girl with the Knife in Her Hand(1991)」もそうだし、「Harmless Kitty (1994)」「Sleepless Night (Sitting)(1997)」そして、二階の「Missing in Action(1999)」など、最初に好きになったころの絵は、「うわぁぁぁぁ」とすごく懐かしく、感動した。「Sleepless Night」の色味、照明のすばらしさよ。そして、だんぜん本物がよいので、これ持っている人は幸せですねとw

展示のしかたも、ただ年代順に並べてあるわけではなく、工夫とリズム感があった。絵とその周囲の空間の雰囲気で一番好きなのは、個人的には、4室の「Twins」。少し高いところにあって、3室のわいわい賑やかな感じから一転、暗く静かになって、「Twins」が双子のお星さまみたいだった。「ハートに火をつけて」はスーパーフラットコレクション展で見たけど、また全然違う雰囲気で感じられた。「M.I.A.」はたぶん新作、初めて見たけど、不思議と一番?気に入っていて、今ポストカードを手帳の表紙にしてます。

3室の浮世絵に描いたドローイングの「Cup Kid(2000)」という小さいもの、2012年の横浜でスタジオを再現した部屋の壁にかかっていたものじゃない? 近くで見られてよかった!

ちょっと戻って、3室に行ったとき「1、2室と3室の間に、何があったんだ!!?」と思ったのは私だけではないと思う。
「アーティスト(としての個性)」が生まれる瞬間ってこんなふうなのかと。
『ユリイカ8月増刊号』、『疾駆/chic 第9号』を読むと、そのときのことも書いてある。
最近、のん(能年玲奈)さんとの対談で彼女の絵を見て、自分にしか描けないものを探していかないといけない、みたいなことをアドバイスしていたと思うんですが(うろ覚え)、それは武蔵美の学費を使い込んだヨーロッパ旅行のときから思っていることなんだな、というのも、これらの雑誌を読んで知りました。面白かったし、共感したし、ある部分では「なるほど、だから自分はこの人の絵が好きなんだ」と、ちょっと自分を見つめ直したりしました。



二階の展示室もよかったけど、三階に移動し「Fountain of Life」「Heads」などに再会し、一息ついてスロープを昇って、最後の三部屋がまた濃密だった。絵はひとつひとつじっくり向き合ってきた自信がある。最初それほど感じなかった「White Night」が、じっと見ていると、あの背景が……背景と合わさって、すごくよく見えてきたり、「Sprout the Ambassador(2007)」も女の子が今にも何か言い出しそうに、でも、その何かが分からなくてもどかしく感じたり。そして、最後の「Midnight Surprise(2017)」「Midnight Truth(2017)」が、ああ、これが最前線かと、一階からずっと展示を見てきて、何だか「ずーん」とくるものがあった。「ずーん」w いや、本当に。


一人で行ったので、じっくり時間をかけられたのもよかった。三周もするとどの部屋もだいたい人が少ない時間に当たることがあって、最後の部屋はスニーカーをはいたスーツの男の人と一緒にしばらく二人で静かに見ていたっけ。何かまあ、そういうささいなことも思い返して、東京に帰ってきてからも余韻に浸りました。雑誌を読んだので、もう一度展示を見てみたい気もするけど、でも今ギャラリーガイド/作品リストを見返しても、だいたいの作品は目に浮かぶし、見ていたときの雰囲気を思い出すので、これでいいかと思います。図録が送られてくるのが楽しみです。

最後に、これから奈良さんの絵がどういうふうに変わっていくのか、変わらないのか、枯れていくのか、分からないけど、そこは、奈良さんが自分自身であってくれればそれでいいわけで、またどこかで個展があったら見に行きたいです。それが、同時代の作家を見るという醍醐味。


ギャラリーガイド/作品リストで奈良さんが書いている長久手町の思い出、これは『ユリイカ』に載っている「半生(仮)」の一部です。全文読みたい方はぜひ雑誌を!

でも、この雑誌で一番面白かったのは、村上隆さんとの対談。声に出して笑っちゃいました。村上さん面白すぎる! スーパーフラットコレクション展がもう一度見たくなりました。実はごめんなさい、奈良さんの陶芸作品は軽く流してスルーしていたの(笑)だってクララ・クリスタローヴァさんの作品に目を奪われていたので。




他にもいろいろ書きたいことは尽きない。

が、とりあえず、おしまい。


追記)本と雑誌など


奈良美智 YOSHITOMO NARA SELF-SELECTED WORKS PAINTINGS

自選ペインティング集、ここに収録されている作品の多くが、いま日本に来ていると思うと嬉しいです。


ユリイカ 2017年8月臨時増刊号 総特集◎奈良美智の世界

今回の個展のためのユリイカ特集号。
一ページも広告が入っていません! 豪華すぎ。
NYで行われた個展の写真が巻頭カラーです。
ロングインタビューやサハリン・樺太の写真、自伝「半生(仮)」など、いろいろ分かった感じですが、とにかく読んでいて面白かったのは、村上隆さんとの対談。いかにも気心が知れている者同士というか、ざっくばらんに語り合ってました。「ここらへん、枯れてる」とか(^^) あと、「これ買わすか、小山さんよぉ~!」には笑ってしまった。


大型書店などで扱っている、『疾駆』という雑誌の第9号も、奈良美智ロングインタビューです。面白かったことの一つは、留学先のドイツと日本との違い。
Twitterに上げたけど、奈良さんの絵を単に可愛い、じゃなく、社会的圧迫の状況にある子どもと結びつけて見たり、
日本にいたときは、絵と生活とが直結していなければいけないと思っていたけど、「ドイツでは、考え方や思想と絵が直結していないと、それは芸術作品じゃなくて単なるグラフィックだと学んだ」と。
なるほどー。

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