2014年1月20日月曜日

『あずみ』感想。前半は少女刺客の成長物語、後半はスーパーキャリアウーマンの話


漫画『あずみ』の感想を、途中まで書いたんですが、放置してました。

しかし、これを書き終わらないと、1月が終わらない気がする!
6年前に完結した漫画をなぜ今更、と自分でも思いますが、しかたない。
『大菩薩峠』といい、イッテQの会話書き起こしといい、時々、こういう自己満足、というよりオタクな記事を書きたくなってしまうのです。

将来、私と同じように一気読みして、ネットで感想を探しているそこのあなたに、少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。ただし、例によって超長文なので、お暇なときにどうぞ!

落書きスキャン→
(BSマンガ夜話でも話題になってた)
爺の変わりっぷりがすごいという話

ずいぶん前に完結しているので、多少のネタバレはいいですよねー?

基本的に、『あずみ』を読んだことがある人向けです。
これから『あずみ』を読む方は、せめて「後半のネタバレ」の前で引き返してくださいね! (分かるようにしておきます) ラストとか知りたくないでしょ!?

追記)申し訳ありませんが、第二部の幕末『AZUMI』の話ではないです……。
 

少女刺客の成長物語(物語前半)



時は関ヶ原の合戦後。徳川方の月斎(「爺」)によって、山奥で、精鋭の刺客として育てられた子どもたち。

唯一の少女であり、一番の手練れでもあるあずみは、豊臣側につく諸侯の暗殺を、「使命」と信じて戦いにいどむ。

仲間たちが次々と倒れる中、次第に人間らしさに目覚めたあずみは……。

前半と後半の境目は、18巻の天海登場にあります。

1~6巻 使命の始まり。
6~8巻 柳生に追われる・パート1 一人ぼっちになる。
8~10巻 打倒家康編。 勘兵衛、飛猿と共闘。
10~16巻 柳生に追われる・パート2 きく、俊次郎、左近など登場。
16~18巻 京都編。やえ、左近との話。

前半でも5巻、10巻などに区切りがあります。5巻であずみの自我が生まれ、個人的な理由による戦いは10巻が最後。

4巻までのあずみは、爺に洗脳されたお人形さん。
多少の葛藤はあっても、爺の言うことを信じきっています。まさに無垢の殺人者。
この頃のあずみは、他人の命だけでなく、自分の命も軽いものでした。

朔太郎や豊臣秀頼と話し、うきはと初恋を確かめ合った後、そして、そのうきはを目の前で失った後、初めてあずみに「生きたい」という強い思いが生まれます。5巻のこのセリフはすごく力強くて、印象に残りましたね。

(友を殺してまで、なぜ生きる!?)
(わからんが……急に突き上げてきたこの強い思いは、何だ!?)

(ここで死んだら、俺たちの一生とは何だ!?)
「俺は、そのことに納得が得られるまで……絶対、生き抜いてやることにしたのだ!!」

この直後から、あずみは爺や徳川方への疑いを口にするようになります。
何が正義で、何が悪なのか……?
大阪夏の陣の後に、宿敵だった勘兵衛が、一旦は答えをくれました。「何を信じ、何を頼りに生きていくべきか。何が正義で何が悪か。それは簡単に答えなど出せない。一生をかけ考え続ける問題だ……」、そして、その時その時、恩義がある人、大切な人の役に立つように生き、時には命もかける、そんな生き方をすればよいのではないか、と。

ここで勘兵衛から贈られた言葉は、あずみというキャラクターの根幹を表すもの。

「心のままに生きよ。汝の心に菩薩あり」

やがて、さまざまに状況が変わりますが、あずみが自ら進んで戦っていたのは、10巻までです。その後は、振りかかる火の粉を払っていただけ。
ここまで、あずみが生きていく目的は、「枝打ちの使命」→「爺を守る」→「家康にけじめをつける」→「やえちゃんに会う」と変遷しています。

最後に、生きる目的をすべて失って、「もう、このあたりで斬られて……」と思ったときにようやく天海が現れ、飛猿が新しい「生きる目的」を吹き込んでくれるのです。それは、天海の下で公儀隠密として天下泰平のために働くということ。



細部まで誠実な絵の魅力


この漫画は、かなり読みやすいです。画力があり、凝ったコマ割りがないので、読む側の負担が少ない。「マンガ夜話」で、90代のおばあさまも新刊を楽しみにしている、というFAXがありましたが。

とにかく丁寧に描かれているので、じっくり読み解く楽しみがあります。
戦闘シーンは、「ここで、こういう動きをした後、こういう動きに移って……」と、一応、全部描いてあります。まあ、スパスパと手足や首が斬れていくのが痛そうでたまらないので、じっくり見る気になれませんが。

戦闘シーン以外でも、たとえば18巻で左近があずみに助太刀するシーン、ここは、立ち上がった左近が、鉄砲をかまえた男たちを分身の術で三人倒しますよね。ところで、背後で左近の連絡役を務めていた男が、一人倒しているんです。この連絡役の男は、顔を出さないくせに他の場面でもわりとしっかり描き込まれていて、私は上月数馬だったんじゃないかとにらんでるんですが……。

数馬は、本当は俊次郎のような、あずみと「ちょっといい仲」になるはずのキャラだったのに、あずみを感動させるような「夢」を持っていなかったので(あずみは他人の夢によく感動しますから)、途中で消えちゃったのかな……と思っています。話がそれましたが。

その他にいくらでもあるんですが、一コマに複数の人物がいても、それぞれがちゃんと独自の動きをしている。27巻で、兵介があずみの短刀の血を拭って鞘をつけてくれるところとか、本当に凝り性というほどいちいち描いてある。41巻では、飛猿は蚊帳の中で目覚めた瞬間、たとえそれがあずみの気配でも、ちゃんと刀に手が伸びてます。

作者の頭のなかでは、登場人物たちが映画のように(現実のように)動いているんでしょうね。それをできるだけそのまま、誠実に、読者に伝えようとしてるんだと思います。遠景からアップまで、様々な角度で、自在にカメラを動かして描写してくれるのが気持ちいい!


アラを探し始めると……


まあ、読者が一番引っかかるのは、やっぱり冒頭ですよ。
「みんなで力を合わせればいいんじゃ……?」って。(笑)
見事なつかみだとは思うけど、第一話と第二話の殺戮だけは、どうしても正当化できない気がするんです。
後半のあずみはあまり気にしてないようなんですが、突然フラッシュバックに襲われたりしないのかな?

それから、冬でも生足。雪国でも生足。
刀は、刃こぼれも血糊もつかずにいつまでも斬れるし。
言ってもしかたないけど、あずみは強すぎるし。

あと、やっぱり、お子様は読まないほうがいい漫画です。
旦那の本棚にずっとあったのに、私が読まなかった理由は、やっぱり戦闘シーンの残酷さです。手足が千切れ、首が落ち、顔が割れて鮮血を吹く……。あと、あずみはいいんですが、その他の女性たちは気の毒な場面も……(特に最初のほうの巻)。それでも、全体として清々しい印象があるのは、あずみのキャラクターとか、要所要所でいい人物が出てくるから……なのかなあ。

好きな話と好きなキャラ


爺との二人旅は、つかの間の親孝行(?)、最後のしあわせな時間という感じでいいですね。きくとの道行き、甲府への珍道中も、「旅」のシーンは好きです。

あと、勘兵衛と飛猿が前面に出てくるので、8~10巻の打倒家康編もお気に入り。飛猿にとっても、個人的な理由による戦いはこれが最後です。温泉(混浴にあらず)であずみと背中合わせになって本音を語り合うシーンがありますが、いやあ、二人とも若かった。

私は飛猿のファンなので、後半にある伊達政宗編も好きです。飛猿は美女丸にこき使われていたあたりから、「結構、いい奴じゃん」と思っていました。23巻で、あずみの頭をポンポンしたときは「すわ、死亡フラグか?」と焦りましたが、本当に良かった。根っから忍びの飛猿は、使命を果たすというスリルを、心の底では楽しんでいるところがありますね。伊達政宗編では、その性格がよく出ていると思います。これは、あずみとの大きな違い。
この二人は付き合いが長いので、仲の良いシーンがたくさんあってホッとします。(あずみには異性と思われてないけど)

私の独断と偏見で選ぶ、
一番哀れ、というかヘタレな男は、俊次郎。
一番可哀想だったのは、きく。松千代ぎみも……。
一番純粋だった(多分あずみよりも)のは、千代蔵。
一番切ないのは、飛猿。
一番気持ち悪いのは、静音。
一番顔の線が多かったのは、宮本武蔵。(自画像に似ているらしい)
一番幸せな登場人物は……と考えたんですが、主人公を含めて、下々の者では特にいないような……どういう漫画だよ。

他にも、うきは、勘兵衛、左近も好きです。
うきは、長生きしてくれたらなあ……。(涙)
勘兵衛は、高潔なおじさまでした~~。
左近は青ざめた顔色、京の遊郭にフラッと現れるところが、『大菩薩峠』の机龍之介に雰囲気が似ていて。
千代蔵は、本当に悲しかった。「ああ~~うを~~」しかセリフがないのに、すごくいいキャラでした。
人間じゃないけど、馬の「紋」もいい味出してましたね。

しかし、本当に良いキャラが死にまくる漫画でした。連載中に読んでなくてよかったよ。



それでは、まだ『あずみ』を読んでいない方は、ここで引き返しましょう!
ここから先は、後半~ラストのネタバレです!





……。




いいですか?




……。




いいですね?

スーパーキャリアウーマンの話(物語後半)


18巻以降は、あずみが諸国に派遣されて陰謀などを阻止する、『攻殻機動隊』のようなスパイものになります。
ただし、トグサやサイトーが、どんどん死んで入れ替わるような『攻殻』ですね。

18~23巻 雪国編 かがり、はつね登場。
23~28巻 伊達政宗編 兵介、宮本武蔵登場。
28~34巻 柳生との決着編 千代蔵登場。
34~40巻(41巻) 西国編。武信登場。
41~48巻 一人旅、甲府編(一応)。剛山、お万登場。

後半、次第に明らかになるのは、「あずみ=スーパーキャリアウーマンの物語」だということ。
複数のイケメンやお殿様から、刺客などやめて「家庭に入れ、養ってやる(意訳)」というプロポーズがあるのに、

「俺はそんな生き方はできない。何かをして働いて……誰かの役に立って糧を得るんでなきゃいけない……。そう教わったし、自分でもそう思う」(27巻)

と、専業主婦などという生き方は、アウトオブ眼中。

そういえば、きくと出会った10巻でも、子連れで行商をしている中年の女性に「あなたは亭主さんの暮らしも支えているということですか!? えらいですね……それは、たいへんなことですね」って、やけに感心していました。そして、

「見ているんだ……志半ばで死んでいった俺の仲間たちが、皆、爺と一緒に、今も俺を見ている。きっと、俺が大きな使命を果たしていくのを、願ってる」(27巻)

「俺は育ててくれた爺や、共に育ち死んでいった仲間たちの想い、願いを、引き受けた身……使命を果たしていくのが、俺の宿命なのだと思っています」(40巻)

などと言っては、仕事に邁進するのです。
でも、武信の「宿命などというものは無い! そんな言葉は己を縛るまやかしだ!」も、いいセリフなんですけど。

一方で、あずみは何度か、
「俺は、刺客と女郎以外の仕事で生きていくことはできないのかな?」
と、考えて、実際に変装して実践したりします。
でも、やはり平凡な生き方では、天から与えられた才能を活かせない……。敵も作りすぎたし……。

ラストは安曇野の山奥、異人の子孫が隠れ住む村に辿り着き、「ここを故郷と思うことにしよう」と決意した後、「さて、(天海様のもとに)帰るか」と案外さばさばした表情で刺客の日常(というのはつまり修羅の場なわけですが)に戻っていきます。

ちなみに、5巻であずみが自分に言った、「ここで死んだら俺たちの一生とは何だ? 俺はそのことに納得が得られるまで、絶対生き抜いてやることにしたのだ」、この問いに対する答えは出たのでしょうか……? よく分かりません。

あずみのその後予測


もし、第二部が続いていたら、天海 vs 崇伝という史実に基づいた話になっていたはず。
せっかく大物悪役の貫禄が出てきた崇伝が、これで終わりとはあまりにもったいない。

そして、あずみはいずれまた、天海に疑いを抱き始めるんじゃないでしょうか。48巻でもかなり相対化して見ていますから。

「そして、俺や飛猿は、(略)天海様に使われてるってわけだ。上の人間の身勝手な野望の為に、血を流し、命を散らすのは、いつだって下で利用される京極や、俺たちや……」

思えば、18巻でわりと純真に天海を信じたときから、30巻(冊)かけて、この認識にたどり着いたんですね。

あずみが家康を殺したと知ったとき、天海は戦慄したと思うんですよ。あずみを敵にしてはならない、もう一度自分の側に取り込まなければならない、と、固く決意したはずです。だから18巻であそこまでやってみせた。「ひゅうが、うきは、あまぎ……」と一人ずつ名前を呼んで、「我が孫たちよ!」なんてやりすぎだと思いません!? 私は背中がむずがゆくなりましたよ……。でも、この頃のあずみは泣き出してしまう。あずみを抱きしめる天海の眼は笑ってないんです。飛猿を先に心酔させておいたのも、飛猿の口から、「天海様は、すばらしい(暗に「一緒に働こう」)」と言わせるためです。

いや、私が柳生宗矩か崇伝なら、次は「あずみと天海が、お互いに疑いを抱く」ように謀略をしかけますよ、きっと。

でも、天海と敵対してしまったら、あずみは大きな庇護をなくしてしまう。そのときは、敵に殺される以外、本当に「外国に行く(ローマを訪れた天正遣欧少年使節みたいに by 「マンガ夜話」)」しか選択肢がなくなってしまうと思うんです。

もちろん、飛猿は、最後は天海に逆らってでも、あずみを外国に逃してくれるでしょうよ。武信はその伏線のために外国と密貿易をやっていたんでしょう。多分飛猿は、あずみを乗せた船が遠ざかって行くのを見つめながら、天海の刺客に討たれて死ぬんですよ……ひゅうがみたいに……ああいう、救いのない最期が多いですよね、この漫画は(特に前半)。
でも、それで、あずみが一人だけ高飛びして、本当にハッピーエンドなのかなあ?

うーん、書いていて暗くなってきたので、あずみの恋愛関係について……。

私と旦那は飛猿が好きなんですが、あずみとくっつくのは、まあ、難しいと思いますわ。あずみは面食いだもん。生娘のままじゃ、ああいう味のある男の良さは分からないのよ!(偏見)
たぶん、また、イケメンの登場人物が出てきて、大人の階段を登るあずみを、飛猿は(……。)(……。)(……。)って無言で見守るんだと思います。これまでも一度も邪魔してないでしょ。俊次郎のときは、あずみの方にイマイチその気がなかったので、音を立ててましたが。
あるいは、あずみが他の男との間に産んだ子を、あずみの側に置いておくと危険だから、飛猿が隠れ里に連れて行ったりとか、そういう切ない役に徹しそうな気がします。

うきはが生き残っていたら、あずみは問題なく恋人に選んでいたと思うんです。幼い頃からの思い出をすべて共有している、かけがえのない仲間。容姿のレベルも釣り合うし。でも、そういう相手とは早晩死に別れるのが運命なんだよね……。

兵介も武信もそうだけど、あずみの手がどれだけ血で汚れているのか、本当に知っているキャラはあまりいないんです。武信が38巻で聞こうとしたけど、かわされてました(身分の差がありすぎるからなあ)。大阪城が落城する前のあずみを知っているのは、もう飛猿だけ。だからあずみが最後に戻ってくるのは、仲間としての飛猿のところしかないのかもしれない。

その上、飛猿は作者から明らかな贔屓を受けているので(2巻から生き残っていること自体が奇跡だし、初登場であずみの胸をむぎゅってしたり、うきはをさし置いて裸を覗き見、爺の次に2巻の裏表紙)、このまま生き抜いて、あずみのそばに居続ければ、ひょっとして、そんなこともないとはいえない……25巻で、兵介が彫った飛猿の頭だけの人形を、あずみが「えいえい、このっ!」と突っついて遊んでいるシーンがありますが、あんな感じで(ってどんな感じ)仲良くやれないものかしら。

いま思いついたけど、一番現実的な延命策は、あずみが「部下を指揮する立場になって、現場に出ないようになる」かもしれない。
『攻殻』の荒巻のような立場ですね。これで、だいぶ危険が減るはず! いつかは殺されるかもしれないけど、それはもう仕方がない……。

それがだめなら、飛猿のファンとしては、もう、どういう経緯でもいいから! 二人で蝦夷地かどこかに駆け落ちして欲しい。二人の身体能力ならどこでも暮らしていけるでしょ。熊とか倒して……。好きなだけ谷走り競争(19巻)すればいいよ。力を合わせて子どもを育てながら、柳生、崇伝、みんな死ぬのを待てばいいじゃないの。

などと、明確なラストがない分、読者は勝手に想像を巡らせるのでした。
まあ、それも楽しいからよしとしましょう。

こんなところまで妄想につきあってくださった方(もしいれば)、ありがとうございます!!!!

追記)「マンガ夜話」のあずみの回は、(こんなこと書いていいのかな)まだネットで見られますー。27巻までしか出ていない時点での収録らしいですが、面白かったです!

お し ま い。