平和について(映画『信長協奏曲』と『スター・トレックBeyond』感想)
ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ をやっと読んだのですが、美術部門やVFX部門など、本当に大変だったのだなぁと分かって、日本アカデミー賞で七冠を取ってくれて嬉しかったです。ああ、円盤の特典映像が見たい、NG集が、プリヴィズが、使われなかったあれこれのシーンが……。
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で、この記事はそれとは別で、先月ロシアに行ったとき、アエロフロートで見た映画4本の感想です。テーマが「平和」と「パワー」でまとまっていたので。
まずは「平和」から。※ネタバレ含みます。
『信長協奏曲(コンツェルト)』
原作の漫画もドラマも知らないので、的外れなことを言っていたらごめんなさい。
とにかく見始めて数分で、口あんぐり。
だって、現代からタイムスリップした高校生の信長が、明智光秀を「ミッチー」、秀吉を「サルくん」って呼ぶんだもん。
歴史を扱った作品もここまで自由になったのか……!
タイムスリップものなのに歴史改変とか気にしてないし!
世代が上の人、あるいは歴史小説好きなら、「ミッチー」「サルくん」の驚愕を分かってもらえると思う。
ウィリアム・アダムスがスキューバの恰好で現れたときは、爆笑しましたw
女性にウケる要素もたっぷり。戦国時代にウェディングケーキって!
でも、この映画は、「平和な世界」 というテーマで、一本筋が通っていると思うんです。
現代からタイムスリップした高校生サブローは、戦国時代のように地域の諸侯が争うことのない、平和な現代の日本を知っている。
だから、「そういう戦のない世界って、ほんとにありえるんだよ。そういう時代が、いつか来るんだ」と、みんなに話して、自分でもそれを早く実現しようとしていく。
そして、史実に破れて死ぬときには(しかし、信長の最期を知らない高校生なんているんかい)「この時代のみんな、後のことはよろしく頼んだよ。平和な時代は、いつか必ず実現できるんだから」と、言い残して現代に戻っていく。
だけど、この最後のセリフ、いま、未来から、2017年にタイムスリップしてきた人がいたとしても、同じようなことを言いそうじゃないか、と……。
超・ざっくりですが、歴史というのは、自分たちとは異質な人たちのことを、少しずつ理解し、仲良くなっていく過程だと思うんです※。日本列島も、大昔は、奈良盆地あたりの小さな部族間でゴチャゴチャ戦争していた。それからゆっくりと時間が進んで、戦国大名くらいの大きな地域間の争いになりました。江戸時代の人々は、「日本」というより「藩」に所属しているという意識が強くありました。それから幕府と討幕派が争って、やがて、「みんな日本人だね。」という意識がわりと最近できあがった……。
いまはまだ、国と国がゴチャゴチャしてます。
でも、いずれは、「みんな地球人だね。」になっていく。これは数年とか数十年ではないかもしれませんが、歴史は必ずこの方向に向かっていく。その前に、環境問題や核戦争で皆そろって滅びなければ。
アメリカのミレニアル世代の若者の1/3は、自分を「アメリカ国民」より「グローバル市民」と考えている、という調査もあります。
アメリカの若者の国家観は親の世代とは大違い
※ここでいう「仲良く」とは「戦争をしない程度に」という意味。今のイギリスとフランスのように、意見の相違はあれ、物理的な戦争をする段階は超えた、ということ。「大人になった」。
新しい世代は、親たちと違う考え方をし始める。
古い世代が死に絶え、少しずつ偏見が消えていく。
人類は「地球人」になり、宇宙に出ていく。
そして、さらに長い時間が過ぎたのが、そう、
『スター・トレック』の世界 なのです。
これまた、私は他のスター・トレック作品を見たことがないので、的外れなことを言っていたら、ほんとにすみません。
ただ、この『スター・トレックBeyond』という作品を見ると、もう軍隊は戦争するためにいるんじゃないんですね。宇宙を探索して、新しい文明と仲良くなるためにいる。そして、この作品における敵は、なんと、いま現在いる、ゴリゴリのアメリカ軍人みたいな人なんです。(いや、アメリカ人じゃなくてもいいんだけど、いちおうアメリカ映画だからw)
「人類にはかつてのように、戦争と苦痛が必要なんだ。それによって人類は強くなれたんだーー!!!」とかいう元軍人。
そう思いつめるようになった理由(恨み)はあるんですけど。
21世紀初頭にいたらそれほど目立たないでしょうが、これが『スター・トレック』の時代には、すっかり「時代錯誤の人」なんです。いまでいうと、「明治時代みたいな教育をしないから日本は弱くなった」とかいう懐古主義の人みたいなものです。
それで、ネタバレは省きますが、最後にカーク船長が「人類はな、変われるんだよ!」と言うんです。戦争は人間の本性と思われていたけど、そうじゃない、変われたんだ、と。そのセリフを聞いて、私は直前に見ていた『信長協奏曲』を思い出して、考えこんでしまいました。
21世紀に人類が達成する、もっとも困難で、しかし、火星に行くよりずっとやりがいのあることは、「平和」を地球上にまで広げることなんだろうな、、、と。
21世紀にできなかったら、それは次の世紀の課題になるでしょう。
だから、『信長協奏曲』とこれを見終わって「結構、いい映画だったじゃん」と思ったんですが。そういうそばから、マレーシアの空港でひどい暗殺事件があったりして。
サブローみたいなやつが2xxx年の未来からひょっこりタイムスリップしてきて、「大丈夫、この星もいずれ平和になるから。そういう世界は可能なんだよ。人類は変われるよ」って言ってくれたら、安心するのになー、なんて思ったことでした。
でも、それこそ、「この時代の人、後はよろしく頼んだよ」ですね。私たちこそが、2017年の「この時代の人」なわけで。
続き。
パワーについて(映画『海よりもまだ深く』と『JOY』感想)