【四コマ】こんなマハーバーラタはいやだ


また、読んだ人にしか分からないものを描いてしまった……! そして、読んだ人には怒られそうな内容……ごめんなさーい、神の化身はうなされたりしませんw

(クリックで拡大します)

【いちおう解説】
カウラヴァとパーンダヴァが戦争するにあたり、クリシュナは「自分の持つ軍隊か、戦いに参加しない自分自身か、どちらかを選べ」と言った。最初にアルジュナがクリシュナ自身を選び、カウラヴァのドゥルヨーダナは喜んで軍隊を選んだ。結果的にはクリシュナが助けた前者が勝つ(とはいえ、両軍ほぼ全滅だが)。
ちなみに二人が援助を頼みにいったとき、クリシュナは寝ていて、彼らはその前で起きるのを待っていた、というエピソードがある。

前回『マハーバーラタ戦記』(以下『戦記』)を読んだ後、もっと詳しい訳に挑戦してるんですが、細部は結構違うところが多く、面白かったので、ちょっとだけ書きます。




原典訳マハーバーラタ〈1〉第1巻(1‐138章) (ちくま学芸文庫)
サンスクリット語から直接翻訳されたので「原典訳」。残念ながら訳者の上村先生急逝のため途中で終わっています。せめてカルナの死、できればクリシュナの死まで出版して頂きたかった!
そしてまた絶版で、プレミアついてるんですけど? ちくま学芸文庫さまー再刷おねがいしますううう!



要約版では、細かい部分が現代的になっている


たとえば、『戦記』では結婚のとき「両性の合意」がありましたね(笑)

アルジュナ駆け落ちエピソード

アルジュナがクリシュナの妹スバドラーと駆け落ちするエピソードは、原典訳では実にあっさりしてます。彼女の意思も確かめずに、勝手に連れ去ったように読めるのが、ちょっと。
クリシュナはどちらの場合も、馬など用意してくれて、アルジュナの味方なんですが、原典訳の場合は「兄として、それはどうなのか」と思ったりして。

遊行者に変装して王宮に入ったアルジュナが、スバドラーの心を射止めて駆け落ちするほうが、現代人としては納得感あります(ちなみにクリシュナだけは正体を知っているが、全力で応援している。この遊行者バージョンの話も、別のテキストにはあったりするのでしょうか~)

すごく細かいんですが、『戦記』でビーマがヒディンバーに結婚をせまられて真っ赤になるところも、可愛くて好きです。

「真のダルマ」の解釈

ビーシュマおじいちゃんやクリシュナがたびたび語る「真のダルマ」。説明がとても難しいですが、「善」とか「正義」、「法」というような意味の言葉です。

これについても、『戦記』では、カーストや世間的な義務とは関係ないんだよ、と書かれていて、よかった。
マハーバーラタのテキストには時代的な制約が当然あるわけですが、現代的に解釈するなら、「真のダルマ」は確かに内なる自分自身との関係しかありえないだろう、と思うのです。

カーストといえば、どんなに修行を積んでも、差別的な視点から逃れられないバラモンを、クリシュナがやさしくいさめるシーンも好きです。
「ウタンカ、きみには驚いたよ。あれほど修行を積んでおきながら、神は万人に宿るということがわからないのか? あの男のなかに、聖なる炎を見てとれなかったのか?」
ウタンカは恥ずかしさのあまり首をうなだれた。クリシュナをがっかりさせてしまったのだ。外見がすべてだと思い込んでいた。性格や身なりやカーストは、ちょうど役者の衣装のように、ほんとうの“我”−–神聖で普遍的な不滅の“意識”−−を覆い隠す外皮にすぎないということを、忘れていたのだ。

『マハーバーラタ戦記』p.301

このウタンカの話は原典訳と比較できないのですが、要約版としては、これはこれで、分かりやすくてすばらしいなと。

キャラクターの印象が変わった点


『戦記』のカルナは、育ての両親との会話が良くて、最後まで「不憫な子だな~」という印象が強かったんです。しかし、原典訳を読むと、詳しく書いてある分「こいつ……ダメだな……」という場面が多くて。とにかく、大言壮語が多すぎるんだもん。それにドゥルヨーダナに媚びるためか、やたら邪悪なことを言ったりしたりするし。ううむ(笑)。

『戦記』は「クリシュナ最強伝説」みたいなところがあるのであまり注目してなかったんですが、アルジュナは実はめっちゃ強い子で。マハーバーラタの主人公をひとりだけ選ぶとしたらやつなのかな……と。立場的には兄王のユディシュティラが主人公かもしれないけど、エピソードの豊富さ、戦闘における活躍では、三男が上じゃ? 「いい子ちゃん」ではありますけど。

ちなみに、今回、四コマにしたアルジュナが軍隊ではなくクリシュナ自身を選ぶシーンですが、後でKが「どうして私を選んだ?」と聞きますよね。
その答えが、『戦記』と原典訳では、ぜんぜん違って、面白かったです。

『戦記』では、アルジュナがとても殊勝で、「弟子」っぽい。それも「いい子ちゃん」のアルジュナらしいんですが、原典訳はまったく違って生意気なんです(笑)。「きみに名声を持っていかれると困るから」「そういえば、きみに御者やってもらいたいと前から思ってたんだよねー」って、自分から言い出すし。何なんだ、このキャラクターの違い。ということで、この四コマを思いつきました。ごめんなさい。


いろいろな訳を読み比べてみると、面白いですね。

コメント

人気の投稿