2015年8月24日月曜日

イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」メモ

「東京オリンピック、あと五年だね。日本のどんなところを世界にアピールしたい?」
(2014/5 一般財団法人経済広報センター インターネット調査「東京オリンピック・パラリンピックを契機とした観光立国に関する意識調査」)
「やっぱり、日本の『お・も・て・な・し』。マナーや気配りの素晴らしさは大事なアピールポイントだよね」(1位 72%)
「あと治安の良さも」(3位 55%)
「近いうちに海外旅行の予定は?」
「あるよー! 私、フラダンスを習ってるのにハワイに行ったことがなかったの。すっごく楽しみ!」
「その旅行先を選ぶとき、マナーやサービス、治安の良さを基準にして選んだ?」
「・・・・・・」
「他の観光立国は何をアピールしているのか、それが観光客数とどんな相関関係にあるのか、客観的に分析して提言するのがインテレの仕事」

「食文化、おいしい食べ物」(2位 68%)で選ぶ人はいるかもしれないけど、個人的には、食べ物だけで海外旅行先を選ぶことはないかな……。以上、「woolly thinking」の話より。


さっと読めて、面白かったのでメモします。まずは結論ともいえるこのセンテンスから。


「今、日本がすべきは、他国と比較して勝った負けたと胸を張ったりがっかりしたり、一喜一憂することではありません。高度経済成長時代にもてはやされた過去の栄光にひたったりすることでもありません。
ましてや、身内同士で褒め合うことでもありません。

事実を客観的に見つめて、この日本の何が成長できて、何に将来性があるのかということを、感情論を抜きにして冷静に話し合うことではないでしょうか。

その議論を通じて、日本の素晴らしい基礎能力を最大限に発揮することが、良い方向に向かうための近道だと私は思いたいのです。それこそがこの(「強み」「弱み」)議論の真意だと思います。
それができた時に初めて本当の意味での「日本の『強み』」が浮かび上がるはずです」(あとがきより)

おお……。
理路整然。

著者は日本学を学んでから三十二年、日本に住んで二十五年というイギリス人。ゴールドマン・サックス証券などで働き引退、しかし、ひょんなことから創業三百年という文化財補修の最大手「小西美術工藝社」に関わり経営をされています。

タイトルは「強み」「弱み」となっていますが、他国と比較して、という意味ではないです。

強みは、他国と比べて勝っているという話ではなく、「日本という国のもつポテンシャルが何かということを、つとめて客観的に分析した結果、見えてきた『強み』」。
「事実を直視すれば、根拠のない自画自賛ではなく本当に日本の素晴らしい魅力が浮かび上がってきます」。(今の状態は「宝の持ち腐れ」とも)

同様に、弱みとは、「せっかく良い部分があるのに活かしきれていないポイント」、言いかえれば今後の「のびしろ」。

全体的に「弱み」の部分は非常に気を遣って書かれていると感じました。文面の端々からうかがわれます……証券会社時代、データにもとづく客観的な分析をすると、「日本を貶める気か!」「日本が好きならもっといいことを書け!」などと、感情的に反発されたことが多かったようです。(あ~~あ)

しかし、「強み」「弱み」、どちらのパートも面白かったです。
全部は書けないので、それぞれ一つずつ印象に残った箇所をメモ(あ、二つずつになってしまいました)。


一回決めるとサクッと変わる国!?


日本の「強み」すなわちポテンシャルは、労働者の質の高さ、比較的古いものがたくさん残っていて、やり方を間違えなければ必ず観光産業が伸びること、などが挙げられてますが……。

面白かったのは、「人口の多さ」という強み。
日本の「技術力」「勤勉さ」を否定しているわけではない、とした上で、戦後、日本のGDPが急成長した主な原因は、人口の爆発的な増加にあるのであって、これは「奇跡」ではないと淡々と述べられていました。

はい、淡々と、数字で説明されています。
ドイツを抜かして世界二位になったのは、圧倒的な人口増によるものだと。(P.37)
ここは読んでいて頭がスッキリしました。

ちなみに、戦前すでに日本は先進国有数の経済規模を有していたのに、いま日本が経済大国になったのは、戦後の「奇跡」の経済成長によるものだ、という主張は、「明治から大正にかけて日本を先進国に押し上げた先人たちをあまりにも軽んじているのではないか」、という感想は初耳でした。
目が覚めた感じです。

今後、人口は減りますが、それは思ったより深刻なダメージにはならないそうです。
人口減が必ずしもGDPを減少させるわけではないと。

ただし、人口増加によって右肩上がりの成長が見込まれ、成功が約束された時代は、終わったので、これからは、今ある強みをベースに、新たな「強み」を発見し加えていかなければなりません。
そのためには、客観的な「強み」「弱み」の把握が必要になります。

もう一つ、面白かったのは、日本は「発想の切り替えの早さ」という不思議な強み(?)があること。方針転換さえ決まれば、それまで立ち塞がっていた問題が露のように消えてしまう、というのです。

「あたかも昨日までの反対などはじめからなかったかのように、誰もが忘れてしまいます」、という文章に、映画『少年H』で、元軍人の怖いおじさん達が、戦後、何ごともなかったかのようにアメリカ人に憧れるシーンを思い出しましたが。

「このような大きな変化がもしイギリスで起これば、なぜこれまでは反対だったのか、どういうポイントを見間違えていたのかという検証が始まります。そして、反対をしていた人たちに、なぜ反対をしていたのかを問いつめることもあります」

「昨日まで尊皇攘夷だと叫んでいた人たちがいきなり開国論者になる。このような柔軟な思考は欧米社会、少なくともイギリスにはありません」とまで、言い切ってもらうと、何だか痛快……。


悲しくなる効率の悪さと、ロジカルでない支配階級


「弱み」は、他国と比較して劣っているというよりは、「ポテンシャルが引き出されていない」部分。

ひとつめは、やはり、「非効率性」「生産性の低さ」。
社会人の多くは、薄々分かっていると思いますが。
(でも、他人に指摘されるとキレたりする)
日本の一人あたりのGDPは、2014年に28位です。まあ、27位は英国ですが。

打ち合わせや現場に無駄な人数がゾロゾロあらわれる、無駄な仕事もまじめにやる、きわめて効率のいい企業が存在するかたわらで著しく効率の悪い業種がある、長時間労働、技術力の高さがありながらすべてを総括すると一人あたりGDPがそれほど高くない、完璧主義のコスト、などなど……。

この効率性向上を阻んでいる原因についても書かれています。
教育水準、モラル、勤勉さなどで世界的に見てもきわめてレベルが高い労働者と、整った環境がありながら、なぜこの数値に甘んじなければならないのか?

「そこには何か一人当たりの生産性を上げられない障害があり、効率性向上を阻んでいる何らかの要因があるはずだ――」

著者がまじめに、論理的に考えていった結果、日本人としてはちょっとガックリするような単純で深遠な要因(?)が書かれていますが、本書をどうぞ。こういう「面倒くさい」思考も、時代のスピードが増すとともに変わっていくといいな、とは思いますが……。

もうひとつ、悲しくなるのは、インテレクチュアル層の知的レベルのこと。
インテレ層とは、企業の経営者、評論家、マスコミの一部など、国策についての議論を形成したり、その議論の結果に影響を与える人々のことです。

ロジカルに物事を判断して、問題を解決する能力。
しかし、日本では「woolly thinking」 がよく見られるようだ、と書かれていました。「woolly thinking」とは、直訳では「羊毛みたいなふわっとした思考」、意訳すると「散漫な思考」のこと。
データに基づかない、論理的ではない思考。

冒頭の会話も「woolly thinking」の例です。(詳しくはP.140前後)

マナーや気配りなどは、リピーターの獲得には効果があるでしょうが、観光の主要因になるかというと疑問。
じつはさまざまな調査で、ヨーロッパやオーストラリアの人々は、「文化財観光」「文化体験」を重視することが分かっているのです。かれらは「お金を落とす外国人」。観光支出額の多さでは、オーストラリアやヨーロッパの国々が中国(10位)より上をいきます。「爆買い」くらいで満足していては、観光発展途上国から抜け出せない……。

もっと恐ろしいのは、「woolly thinking」 のために、しなければならない改革のために必要なインテレによる議論がまとまらない、それどころか、問題の本質の特定自体がはっきりしないこと。そのために社会が進歩せず、いつも、表面化した問題の事後処理をするだけになってしまう……耳が痛いですね。

また、「海外は議論の文化とよく言われますが、それは違います」と、釘をさしてあります。
アメリカは議論を嫌い、「イギリスは議論が好きですが、その議論の基本はロジックです」と。ああ、そう、ロジック。『失敗の本質』(旧日本軍の組織を研究した本)から変わらぬこの国の苦手分野。

仮説として、日本人がエンジニアリングと理数系に強いのは、数学や物理学はロジックそのものの世界で「woolly thinking」が入り込む余地がない、だからむしろ能力を発揮できるのでは、という指摘も面白いと思いました。
(もちろん、文系だって、たとえば法律の解釈は論理的なものなのですが……)

他には、「強すぎる個人主義」は、日本人といえば「和」「絆」という言葉を使いがちな国内の常識と反しているようですが、そういう面は確かにあるな、と思いました。

どういう道を選ぶのか


実は、日本が今後どういう国を目標とするかによって、「強み」「弱み」は大きく変わってしまうといいます。

世界への影響力をキープしたいなら、絶対額のGDPを増やさなければならないので、人口減少時代には苦労することになります。イギリスのように移民を受け入れる政策を取ることになるかもしれません。

国民の幸せを追求しようというなら、ヨーロッパの人口小国をモデルにする手法があります。これまでの日本は、経済成長のために、国民の幸せを第一の目的にはしてきませんでした(少なくとも外国人の目からはそう見える)。

「絶対額であるGDPにこだわり続けるのか、欧州のように一人当たりGDPという新たな基準へと舵を切るのか」。

今のところ、惰性で、これまでと同じ、前者の方向に進んでいるように見えますが、長期的なヴィジョン(これまた戦前からの苦手分野)と、国民的合意が必要になりそうです。



イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」 (講談社+α新書)



これも読んでみようかな。

ちなみに冒頭のイラストは、『ゆるりほっこりカフェ・イラスト素材集』(私物)。


0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントは管理者が確認した後に公開されます。
(このブログや投稿にそぐわないと思った場合は公開しておりません)