たかが五億五千万円の車です(『007 スペクター』感想)

静かに怒って(あきれて?)いても、顔は同じなのがイギリス人。

今年のスパイ映画の締めくくり、『007 スペクター』。
この絵が描きたかっただけで、大した感想はないんですが。

以下は、極力ネタバレなしで。。

『スペクター』は、一言でいえば、過剰なほどファン・サービスたっぷりの映画!でした。
昔からのボンドシリーズのファン。
今作で降板するかもしれないダニエル・クレイグのファン。
前作で急に人気が出たQのファン。

それにアクション、「世界観光地めぐり」、車(アストンマーチン)、ロンドンの夜景の美しさなど、ぜーんぶ一流の娯楽大作です。

でも、あえていえば、前作の『007 スカイフォール』、そして、今年のスパイ映画で一番じゃないかという『M:I ローグ・ネイション』のほうが、単体としての完成度は上じゃないか、と思います。



『スカイフォール』は、Mのキャラクターが出来上がっていたので、そのぶん、深みが出たのかと。Mは女王陛下の比喩のようでもあったし(スパイは女王陛下のために働くのだ)。

オープニングからラストまで一瞬も途切れないアーティスティックな映像美、重厚さが素晴らしい。


あ、あ、でも、これでダニエル・クレイグが終わりかもしれない、ということなら、『スペクター』はこうやって作るしかなかったし、その目的は成功していると思います。

スパイ映画も優しくなったな、と、感慨深かったです。
ラストはもちろんだけど、たとえば通常の拷問が出てこない。
これは観客がそういうのは飽きたというか、見たくない、ということだろうと。
『スペクター』は一応ありますが、怖さと怖くなさのバランスにすごく気を遣ってました。

Qは、人気が出たので、急きょ出番を増やされたのだと思いますがw
しましまセーターも似合う35歳。
普段はトラッドな格好だけど。
「どうしよう、007を連れ戻さないとクビになって、僕と二匹の猫が路頭に迷ってしまう。オーストリアって寒いのかな……厚手のセーター着ていこう」って、あんたに連れ帰れるようなボンドじゃないだろうに。奴ならなーんの心配もいらないソフトな場面(むしろ「おっ、これから空中アクションか」と期待するくらい)でハラハラしてしまった。ボンドが「Q、ロンドンに帰れ」って言ってくれてホッとしたわ。
どこかの感想で、「時代はギーク」と書かれてましたが。
そうだよね、でもベンジーは絵に描く気にならないの、ごめんなさいw

あと、M:Iと007の製作者はお互いに意識して、刺激を受けているんだろうなと。
今回、『スペクター』では、ユーモア要素チーム要素が増えてました。
もちろん、前者はブリティッシュなもので、「がはは」ではないんですが。
スカイフォールにもありました。Mに「あなたの弔辞を読みました」「それで?」「最悪」「でしょうね。誇り高く、忠実な……」「そこはとくに問題では」みたいなの。今回はそれより分かりやすかった?

マネーペニーの私生活もちらっと出てきました。
あと、Mじゃなくて、もう一人いる同僚の男の人(名前が分からない~ごめん)も地味に好きです。


今回、「長年の宿敵」みたいなのが出てくるわけですが、悪の組織というのも難しいものだなと。
恨みを持った元スパイとか、世界を支配するブラック企業の集合体とか、だんだん出尽くしてきたな、という感じがしました。そう何度もボンドの過去に絡めるわけにもいかないだろうし。

リアルの世界でいえば、もう、あれか、あれしか、全面的な敵にはならないんじゃないかという気がします。
(ロシア、中国にあらず。エシュロン的なものに「NO」というメッセージはヨーロッパ的でした。あと、民主主義には「YES」ね。今作はパリの同時テロ事件が起こる前に撮られているはず)

スパイ映画、2016年も作られるでしょうが……これからどうなっていくのでしょう。




ヒロインとの関係は『ローグ・ネイション』のほうが好き! ストイックで、対等で。
いま思えば、イギリスの首相がかなりコメディな扱いだったような……。

ナナメ上な予想では、次回作は009が絡んでくる気もします♪

「おーよしよし、007はひどいんだよー
僕が作った5億5千万円の車をさ……」

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コメント

  1. こんにちは!
    あれ5億もするんですね…しゅごい…
    絵も文章も上手ですね。
    自分の考えを分かりやすく言語化する事や絵にしてイメージを自在に伝える術を持っていて羨ましく、憧れます。

    実は攻殻の記事を検索中にこちらにたどり着きました。
    あの映画はなんとなく言いたい事は分かるものの自分の浅学菲才からはっきりと言語化できない部分や解釈が多くありました。
    自分が自分である根拠と「制約」の話や
    人形遣いと素子の「似たもの同士」の意味など劇中では処理が追いつかず流してしまった思考がスッキリ整理されました。
    常に「今」しか認識できない「童」という当たり前ながらどうする事も出来ないバトーと「人」に進化した「素子」という未来との会話なのだと今更ながら理解する事が出来ました。
    「そうそうそうそう」と「なるほど!」というのが盛り沢山でした。

    他の映画評も読みましたがどれも面白く読ませてもらいました。
    これからも是非色々と書いてもらえたら と思います。

    返信削除
  2. コメントありがとうございました。
    『攻殻』やその他の映画の感想、どれも長文なのに読んでいただけて感謝です^^
    とくに『攻殻』は二十年前とは思えないくらい色々と考えさせられる部分があり、大好きな作品です。バトーと(進化して素子ではなくなった)素子との会話、味わいがありますよね。バトーには切ないともいえますが。こういう別れ方は他の映画ではあまり見たことがないです。

    最近ブログをさぼりがちなのですが(汗)
    また何か書いてみたいと思いました。ありがとうございました。

    返信削除

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