『シチズンフォー』はありえないほどリアルなスパイ映画

2013年6月、一人の若者が内部告発をした。
CIAや国家安全保障局(NSA)は、かつてない規模で、一般国民のプライバシーを侵害する違法行為を行っている。


香港であのリークが始まったとき、ミラ香港に滞在していたエドワード・スノーデンたちの一部始終を、映画監督が撮っていた(知らなかった、スゴイ!)。それを編集したのが、映画『シチズンフォー』である。

だから、登場人物は全員本物。自分も同じ部屋にいるような臨場感でドキドキしてしまう。あの火災警報器が鳴ったときといったらw いつドアが蹴破られるのか気が気じゃなかったよ!

主演のスノーデンは、シャイな微笑みを浮かべる、ぶっちゃけイケメン。
でも、後半アメリカ政府とNSAに追われるようになると顔つきが引き締まり、目の下に隈が見えるようになる……派手なアクションが何もないのに、これ以上リアルな「スパイ映画」は、ちょっとないかもしれない。

シチズンフォー、というのは、スノーデンが使用したハンドルネームで、「私が最初の人間ではなく、志願する最後の人間ではない」という意味。
NSAではこれまで三人が市民のために内部告発したが潰された、それを見ていた四番目の市民(スノーデン)は、世界中の誰も無視できないようなやり方で発表するしかないと考えたそうだ。そして、たとえ自分が失敗しても、シチズンファイブ、シックスは必ず生まれる、と。

興味深かったセリフやシーン、あるいはパンフレットの内容からメモしておく。(一度観ただけでうろ覚えなので、正確ではありません。あくまでこんな感じのことを言っていた、ということで)

ちなみに、スノーデンはあまり役に立たないデジタルTIPSも教えてくれるよ。
「パスワードが10桁以上ならまだマシ、NSAは二日で解くけど」、「念のためですけど、SDカードをさしっぱなしにするのは危険ですよ」、「IP電話はいつでも通話中でなくても遠隔盗聴器になります。アナログでもセンサーがついてれば」などなど。
iPhoneも、簡単に盗聴ツールになるみたいだw

(ミラ香港で、最初に会うときのスノーデンの指示)

「僕はルービック・キューブを持っています。
『レストランの営業時間を知っているか?』と尋ねてください。
僕は『フロントで聞いてみてはどうですか』と答えます。
レストランの入り口を見に行ってください。僕も後をついていきます。
あとは、流れにまかせてください。」

※うろ覚えですが、こんな感じだったかと。リアルスパイ・・・

「インターネットは、以前はすばらしいものだった。
9.11後は、みんな、『そんなことをしたら監視対象に載ってしまう』と冗談を言う。
検索語句に気を使っているひともたくさんいる。
監視されているのが前提になってしまったんだ。
自由はどこへいった? これでは人々は萎縮してしまう。」

市民と国家が、『支配されるもの』と『支配するもの』になってしまった。
本当は『有権者』と『当選者』なのに。

自分は悪いことしていないから、監視されても大丈夫、という人は、今すぐ、盗聴器を自分の電話に取り付け、インターネットで使用しているすべてのパスワードを政府関係者に引き渡してください、と言われても従うのですか?

誰が情報を見ているのか、あなたには分かりません。

NSAは、テロや犯罪への関与があるかないかは関係なく、すべての国民の電話の会話、メールの内容、インターネットで検索した言葉など、膨大な通信記録を収集、保管している。データ収集対象は、アメリカだけでなく、世界中の国々に及ぶ。

情報機関職員には検索ツールが用意され、ターゲットになった個人の行動を詳細に追跡することが可能。

NSA職員のPCでは好きなドローンの映像を見ることができる。膨大なリストから選択すると、少し画像は荒いけどリアルタイムで見られるそうだ。ほとんどは攻撃の場面ではなく、どこかの建物などを何日も何日もずっと監視している映像である。

NSAが集めた超巨大なデータを集積するデータセンターは、ユタ州ブラフデールにある。
『WIRED』VOL.14のスノーデンのインタビューに載っている。
テキストであれば500京ページ(1京は10の16乗)にも及ぶ1ヨタバイト以上のデータ保管能力を持つ、93000平方メートルの建物。「ミッション・データ・リポジトリ」という名前で呼ばれている。


NSAは秘密鍵で暗号化されて今は解読することができないデータも収集・保存している。

「将来、量子コンピュータで解読できると期待して、世界中の諜報機関が現在の技術では解読できない暗号化されたデータを大量に取得、保管している」(『日系サイエンス 』2016年8月号)。

※つまり、量子コンピュータが実用化された瞬間に、世界中の人々のデジタル上のプライバシーは、何十年も遡って丸裸になってしまうということ!! ショッキング。私は自分が生きているうちに量子コンピュータが実用化される未来を見たいと思っているけど、こんな問題があるとは思わなかった。私たちは、政府と諜報機関にどんな仕事をして欲しいのか、よく考えなければならない時代に来ているのかもしれない。

オリバー・ストーン監督もスノーデンの映画を作ろうとしている。ストーリーは若干脚色されているけど、そのぶん視覚的に訴えるシーンが多い感じ。無事に完成して欲しい。



『シチズンフォー』のローラ・ポイトラス監督のアカデミー賞受賞スピーチより。

「エドワード・スノーデンが暴露したことは、プライバシーへの脅威だけでなく、民主主義への脅威でもあります。
私たちすべてに影響する重要な決定が、秘密裏に行われているということは、私たちを支配する権力を抑止するという能力を失うことになります。」

『WIRED』VOL.14のインタビューは、ウィキリークスの援助でロシアに渡ったあとのスノーデンの声を読むことができる、貴重なテキスト。このインタビューで初めて明かされた情報も多数あり、興味深かった。
ハッキング元を自動的に攻撃する、コードネーム「モンスターマインド」プログラムなど、ほとんどSFの世界(攻殻機動隊の攻性のプログラム……) いや、これが現実なのは分かっているけど。WIREDの記事は、よく読んでから、またこのエントリに追記するかもしれない。



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